【知らないと損】医療費控除&高額療養費制度を徹底解説|節約の実例付き

「もしもの時」の医療費に備える、賢い家計管理術
「突然の病気やケガで、高額な医療費がかかってしまったらどうしよう…」
そんな不安を抱えている方は少なくないでしょう。私たちの生活は、予期せぬ医療費の支出によって、経済的な打撃を受ける可能性があります。しかし、日本には、そうした個人の負担を軽減するための強力な公的制度が2つ存在します。それが、「医療費控除」と「高額療養費制度」です。
これらの制度は、一見似ているようで、その目的、仕組み、利用方法が大きく異なります。しかし、両者を正しく理解し、賢く活用することで、あなたの医療費負担を劇的に減らすことが可能です。
この記事では、
- 「医療費控除」と「高額療養費制度」の基本的な違いと、それぞれの仕組み
- 医療費控除の対象となる費用、ならない費用の具体的なリスト
- 2025年以降に予定されている、高額療養費制度の変更点とその影響
- そして、両制度を組み合わせて、医療費の自己負担を最小限に抑えるための具体的な戦略
を、豊富な情報と分かりやすい表を交えて徹底的に解説します。この記事を読めば、医療費の不安から解放され、安心して日々の生活を送るための知識が身につくはずです。
1:2つの制度の基本を理解する
まずは、医療費控除と高額療養費制度がどのような目的で、どう機能するのかを明確に理解しましょう。
医療費控除:1年間の医療費負担に応じた「税金軽減」
医療費控除は、所得税を軽減するための「所得控除」制度の一つです。
- 目的と仕組み: 1年間(1月1日~12月31日)に本人または生計を共にする家族が支払った医療費の合計額が一定額を超える場合、その超過分を「所得」から差し引くことができます。これにより、課税対象となる所得が減り、結果として所得税や住民税の負担が軽くなります。
- 対象期間: 1年間(暦年)。年間の医療費をまとめて計算します。
- 適用される基準額:
- 原則として、年間10万円を超える医療費が対象です。
- ただし、総所得金額が200万円未満の人は、「総所得金額等の5%」を超えていれば利用できます。
高額療養費制度:1ヶ月の医療費自己負担を「払い戻す」
高額療養費制度は、医療費を直接的に軽減するための「給付」制度です。
- 目的と仕組み: 医療機関や薬局で支払った医療費が、1ヶ月の上限額を超えた場合に、その超過分を健康保険組合から払い戻してもらうことができます。高額な医療費で家計が破綻することを防ぐための、セーフティネットとしての役割を果たします。
- 対象期間: 1ヶ月間(月の1日~月末まで)。月をまたいで入院した場合などは、月ごとに計算されます。
- 適用される基準額: 所得に応じて定められた自己負担限度額が基準となります。この限度額は、年齢や所得によって細かく定められています。
2つの制度の主な違いと連携
項目 | 医療費控除 | 高額療養費制度 |
目的 | 1年間の医療費負担に応じた税金(所得税・住民税)の軽減 | 1ヶ月の医療費自己負担額を軽減するための払い戻し(給付) |
制度の種類 | 所得税の軽減を目的とした所得控除制度 | 医療費の払い戻しを行う給付制度 |
対象となる期間 | 1年間(1月1日~12月31日) | 1ヶ月間 |
手続き方法 | 確定申告によって行う | 通常、健康保険組合などから送られてくる書類に基づいて申請 |
他制度との連携 | 高額療養費制度による払い戻しは、医療費控除の対象となる医療費から差し引かれる | 医療費控除の計算において「補てん金額」として扱われる |
2:医療費控除の対象となる費用とならない費用
医療費控除を最大限に活用するためには、何が対象となり、何が対象とならないかを正確に把握しておくことが重要です。
控除の対象となる費用(一部抜粋)
- 診察・治療費:
- 医師の診察費用や治療費
- 治療目的の歯科矯正、インプラント費用
- あんま、マッサージ、はり、きゅうの施術代(治療目的の場合)
- 妊娠中の定期健診や出産費用
- レーシック手術費用
- 医薬品:
- 医師の処方箋に基づいた医薬品の購入費
- 市販の風邪薬や花粉症の薬など(治療のために購入した場合)
- 交通費:
- 通院のための電車、バス、タクシー代(自家用車のガソリン代や駐車料金は対象外)
- その他:
- 病院の食事代(治療に必要な場合)
- 人間ドックや健康診断で重大な疾病が見つかり、治療に繋がった場合の費用
控除の対象とならない費用(一部抜粋)
- 健康増進・予防:
- 人間ドックや健康診断の費用(病気が見つからなかった場合)
- 疲労回復や肩こり解消のためのマッサージ
- サプリメントやビタミン剤など、病気の予防や健康増進目的の費用
- 美容目的:
- 美容目的の歯科矯正やホワイトニング
- 美容整形の手術代
- その他:
- 入院中のUber Eats代や日用品の購入費
- 出産のための里帰りの交通費
- 眼鏡やコンタクトレンズの購入費(治療目的で医師の指示がある場合は除く)
3:年収別の医療費負担と制度の変更
高額療養費制度は、年収によって自己負担限度額が異なります。2025年8月以降、特に高所得者層の負担が増加することが決まっています。
年収別の高額療養費制度の自己負担限度額(70歳未満)
この表は、あなたの年収が今後、高額療養費制度によってどう影響を受けるかを示しています。特に年収が高い層は、今後の医療費負担増に備えておく必要があります。
年収(額面) | 自己負担限度額(現行) | 自己負担限度額(2025年8月〜) | 自己負担限度額(2027年8月〜) |
約1,160万円〜 | 29万400円 | 30万3,800円 (+3,700円) | 36万300円 (+69,900円) |
約770万円〜1,160万円 | 17万8,800円 | 18万8,400円 (+9,600円) | 27万400円 (+91,600円) |
約370万円〜770万円 | 8万100円 | 8万8,200円 (+8,100円) | 11万3,400円 (+33,300円) |
約200万円〜370万円 | 5万7,600円 | 6万600円 (+3,000円) | 7万9,200円 (+21,600円) |
住民税非課税世帯 | 3万5,400円 | 3万9,000円 (+3,600円) | 3万6,300円 (+900円) |
セルフメディケーション税制との違い
医療費控除と似た制度として、「セルフメディケーション税制」があります。これは、医療費控除と併用できないため、どちらか一方を選んで申告する必要があります。
- 目的: 健康診断などを受け、健康管理に積極的に取り組んでいる人が、特定の市販薬(スイッチOTC医薬品)を多く購入した場合に、税負担を軽減する制度です。
- 利用条件: 1年間で1万2千円を超える対象医薬品の購入をした場合に利用できます。
第4章:医療費控除の手続きと賢い活用戦略
医療費控除の適用を受けるには、確定申告が必要です。
確定申告の手続きの流れ
- 準備:
- マイナンバーカード、パスワード、スマートフォンまたはPCを用意します。
- 1年間(1月1日~12月31日)の医療費通知や医療費の領収書を保管しておきます。
- オンラインでの手続き:
- 国税庁のウェブサイトにある「確定申告書等作成コーナー」を利用します。
- 「マイナポータル連携」を利用することで、医療費通知情報を自動で取得でき、入力の手間を大幅に省くことができます。
- 控除額の算出:
- 実際に支払った医療費の合計から、保険金などで補填された金額を引きます。
- その金額から、10万円(または総所得の5%)を差し引いた金額が、医療費控除額となります。
- この控除額を所得から差し引いて税金を計算し、還付金を受け取ります。
賢い活用戦略
- 家族の医療費を合算する: 医療費控除は、生計を共にする家族全員の医療費を合算して計算できます。一家の大黒柱など、所得が高い人がまとめて申告することで、高い税率で控除を受けられ、還付金も多くなります。
- 交通費も忘れずに: 通院にかかった電車代やバス代も、領収書がなくてもメモがあれば控除の対象になります。忘れずに計算に含めましょう。
- 高額療養費制度との連携: 高額療養費制度で払い戻しを受けた金額を、医療費控除の計算から差し引くことを忘れないようにしましょう。これにより、正しい金額で控除を受けることができます。

高額療養費制度の変更点:2025年以降の自己負担額
高額療養費制度は、1ヶ月の医療費自己負担額が上限を超えた場合に、その超過分が払い戻される制度です。この上限額が、2025年8月以降と2027年8月以降の2段階で変更されます。
1. 年収別の自己負担限度額の変更
以下の表は、70歳未満の方の年収別の自己負担限度額の変更点を示しています。
年収(額面) | 自己負担限度額(現行) | 自己負担限度額(2025年8月〜) | 自己負担限度額(2027年8月〜) |
約1,160万円〜2,500万円 | 29万400円 | 30万3,800円(+3,700円) | 36万300円(+69,900円) |
約770万円〜1,160万円 | 17万8,800円 | 18万8,400円(+9,600円) | 27万400円(+91,600円) |
約370万円〜770万円 | 8万100円 | 8万8,200円(+8,100円) | 11万3,400円(+33,300円) |
約200万円〜370万円 | 5万7,600円 | 6万600円(+3,000円) | 7万9,200円(+21,600円) |
住民税非課税世帯 | 3万5,400円 | 3万9,000円(+3,600円) | 3万6,300円(+900円) |
2. 変更点と影響
- 段階的な引き上げ: 2025年8月以降と2027年8月以降の2回に分けて、自己負担限度額が引き上げられます。
- 高所得者層の負担増: 特に年収約770万円以上の層で、自己負担限度額が大幅に引き上げられることがわかります。
- 低所得者層の負担増: 住民税非課税世帯も負担が増えますが、その増加率は他の層に比べて緩やかです。
この変更を把握しておくことは、今後の医療費の備えを考える上で重要です。
まとめ:医療費の不安を安心に変える知識
医療費の負担は、誰もが直面する可能性のある問題です。しかし、国の制度を正しく理解し、積極的に活用することで、その負担を大きく軽減し、家計を守ることができます。
- 高額療養費制度は、1ヶ月の医療費の自己負担額を抑えるための制度。
- 医療費控除は、1年間の医療費負担に応じた税金の軽減を受ける制度。
- 両制度は連携し、高額療養費制度で払い戻しを受けた分は、医療費控除の対象から差し引かれます。
- 医療費の領収書や交通費のメモは、日頃からしっかりと保管しておくことが、賢い手続きの第一歩です。
これらの知識を活かし、あなたの医療費の不安を安心に変え、より豊かな生活を築いていきましょう。